はじめに
今月は勝手にTableau集中トレーニング月間!1週間に最低3つのVizとその解説記事を作成することをノルマとする。お題は「東京」に関するものであればなんでも良し。本日はその第一弾、1年ほど前に作成した池袋西口のラブホテル街のVizをリメイクしてUPした。データは昨年(2022年)に取集したものなので、2023年現在の店舗立地や価格帯とは少々状況が異なる可能性も、変化の速いこの業界ならではじゅうぶんあり得るが、それはさておき。
池袋西口に住んでいたころ、家の周辺がとにかくラブホテルだらけだった。クラブや居酒屋のある駅付近の飲み屋街と比較すると、夜更けた頃合いに、路上で座り込んだ泥酔者やふらふら千鳥足で何事かわめく酔っ払い、風俗店の客引き等があまり見られなかったから、治安の悪さを感じることじたいは少なかったが、どれもこれも競うように奇抜な外観を披露していたから、とにかくよく目立った。それが、普段使いのスーパーの目の前にも、ちょっとした路地の先にも、何食わぬ顔で佇んでいるのである。完全に池袋西口の日常生活に溶け込んでいた。いったいいくつあるのだろう?休憩料金ないし宿泊料金の相場はどれくらいなんだろう?などなど、色々と気になって、週末土日の空き時間にコツコツとデータを収集していたのであるが、ちょうど仕事の関係で使うようになったTableauのよい練習材料だ、これをテーマにひとつVizでも作ってみようと思い立った。なお、このVizを制作する過程で、カップルズやハッピーホテルといった、ラブホテル専用の情報ポータブルサイトが存在することを知った。
歴史(抄)
池袋ラブホテル街の最大の特徴は「ソープランドと混在していること」。素人目には同じ風俗関連産業なんだからひとところにあってもおかしくないように思えるのだが、実際は「ありそうで意外に都内ではほとんどない」組み合わせらしい*1。ソープランドは戦前の貸座敷、すなわち遊廓跡に展開されるケースが大半だが、店に所属しているプロのお姐さん=娼婦=ソープ嬢と遊ぶ場所である。一方ラブホテルは、現在でこそホテトルやデリヘル全盛期だが、当初のコンセプトでは一般の男女が利用する場所*2。あくまで女性目線であるが、玄人の空間と素人の空間は別々のところにある、と考えるとなるほど自然に両者は分かれて立地するのもうなずける。
昭和に活躍した地理学者で、東京の盛り場に関する著書も多い松澤(1986)によると、池袋西口にラブホテル村ともいうべき景観が出現したのは戦後まもない昭和21年頃、池袋西口駅前にバラックの飲み屋街、所謂闇市が誕生したのと前後して連れ込み宿が出来たのがきっかけであるという*3。昭和20年代の様子については、都市整図社が作成、販売している「火災保険特殊地図」によって確認出来る。常盤通りの両側、大通りから一歩奥に入った路地に旅館やホテルがぱらぱらと立地しているが、旅館・ホテル街というにはまだ少ない気がする。この辺りの歴史的背景は別の機会に調査するとしよう。
データについて
2022年7月当時、池袋西口から半径約500メートル圏内に立地するホテルの約7割がラブホテル(ないしはレジャーホテル)というのは驚きであったが、価格帯は新宿、渋谷等の他の盛り場と比べて相対的に安い印象。なお料金は休日料金を基本とし、休日料金が見つけられなかった場合は平日料金で代替した。またデータの出典は次の順番で採用している。
- 各ホテルの公式HP
- ラブホテル専用情報ポータルサイト
- 風俗系(主にデリヘルの)口コミサイト
ホテルによっては1と2で該当がなく、3でホテル名を検索してようやくヒットするものもちらほら。どことない後ろめたさと淫靡な空気漂う3は、意外と室内写真が多く、室内の様子や料金、設備、サービス内容等が細かく記載されていて、得られるものも多かった。しかしデリヘル利用客の口コミがメインなので、なんとなくここにしか掲載がないホテルは一般のカップルよりもそっちの商売客によく利用されているホテルなのかなと勘ぐってしまう。
調査方法としては、まず最新のゼンリン住宅地図を片手に町を歩いて、現存するラブホテルをすべてリストアップし、次にそれぞれの詳細情報を上記の方法で取得した。
ラブホテルの定義
ここでラブホテルの定義も確認しておこう。風営法の改正や、近年のラブホテル離れの影響なのか、ぱっと見いかにもラブホテルっぽい雰囲気でも、実は厳密に風営法で定義するところのラブホテルには該当しないホテルが意外と多い*4。例えば、成人と同伴であれば18歳未満の未成年者の利用が可能というケース。ラブホテルは未成年の利用が法律上制限されているので、これを堂々宿泊プランとして宣伝しているということは、少なくとも法律上はラブホテルではない、ということなのかもしれない。
ただ、細かく分類すると複雑になるので、今回のVizでは、明らかなシティホテル(アパホテルとか東横インとか)を除いたホテルを、風営法で定めるラブホテルに該当するかしないかを問わず、一括して「ラブホテル」と分類することにした。具体的には、上にキャプチャを載せた通り、B広義のラブホテルに該当する店舗で、施設小分類の1から5に当てはまれば、厳密なラブホテルの条件を満たしていなくてもラブホテルと分類している。
今回のチャレンジポイント
ちなみに、単なる好奇心と趣味からラブホテルのVizを作っていたわけではなく(笑)、Tableauのトレーニングを目的とするれっきとした自己研鑽活動なので、スキルアップを狙って仕込んだポイントがいくつかある。
- 地図上で選択したホテルをリストの一番上にソートする
- 選択したホテルのツールヒントに公式HPのリンクを埋込み
- ホテルリストは1つのワークシートで作成!(スクロール同期!)
- 背景にMapboxでカスタマイズしたオリジナルマップを使用
1はセットとアクションを組み合わせたよくあるテクニックだが、業務で作成するダッシュボードでも、まずメインシートで全体を見せ、次にその中の気になるポイントだけフォーカスして詳細を見たいとなった場合に使える手法なので、復習も兼ねて採用。2は、URLをリストに直接埋め込むとスペースを取ってしまうし、常に見せたい情報でもないので、選択したときにだけ表示されるように工夫。
3は複数のシートに分けて作成したチャートをダッシュボート上に配置した際に起こりがちな問題、「どうやって複数シートを同時にスクロールする?」へのささやかな対処法。世界にはすごい人がいくらでもいて、その代表的なテクニックがSamuelさんの以下のVizだろうが、今の私のTableauスキルレベルでは、とてもこれは読解できなかったので、、、
▼Samuelさんのテクニック ※とても難解
Super Advanced Tableau Tables - YouTube
こちらのSimonさんのVizに使われているテクニックをちょっと拝借して何とか目的を達成した。とくに休憩料金の分布を出すところ、リファレンスバントを使うテクニックがあることを知った!バンドが太くてちょっと不格好だが、まあ良いだろう。
▼SimonさんのViz
スクロール同期テクニックについてのまとめ記事はこちら。先に挙げたSamuelさんの手法も紹介されているし(記事中で「too tricky」とコメントされているから、やっぱりこれほどのプロからみても難易度高い技術なんだろう…)、もっとシンプルな方法で実装する方法!も複数考案されている。これはブックマーク必須。
むすびにかえて
1年前に作成したVizは数ページにわたる長大なものだったが、今回はテーマを「池袋西口のラブホテルのポータルサイト」と定めて大幅にダイエットすることが出来た。これは、「何を目的としたダッシュボードか」を意識するよい経験になった。ダッシュボード作成の基本中の基本、「まずはテーマを決めよう」。
*1:金益見、村山憲司(2016)『日本昭和ラブホテル大全』辰巳出版よりp12参照
*2:ラブホテルの歴史に関しては以下の著作が詳しい。井上章一(1999)『愛の空間』角川書店。なお2015年に刊行された文庫版では第6章と第7章が収録されていないので、絶版ではあるが1999年の角川選書版をおすすめする
*3:松澤光雄(1986)『繁華街を歩く東京編―繁華街の構造分析と特性研究―』統合ユニコムよりpp232-235参照
*4:この辺りの背景には、風俗営業に対する規制の厳しさ、例えば事業は一代限りで継承や相続は基本的に認められないことや、内装の改修やリフォームの差異にはいちいち所轄警察署に届けなくてはならないことなどが影響していると考えられてもいる。それらの寄生をかいくぐるために、一時期「偽装ラブホ」が全国の繁華街で大量発生して問題になったこともある。風営法におけるラブホテルの位置づけとその規制については、以下の書籍を参考にした。吉田一哉(2019)『逐条解説 風営適正化法』東京法令出版