白い鳩の歩くまま思うまま

足で稼いだ情報から、面白いデータの世界が見えてくる

【オープンデータ】第6回PT調査を可視化しよう!駅間OD表の分析~前編:隣り合っても異なる街~

はじめに

ここ最近の猛暑ですっかり出不精になり、遊ぶ予定の友人は相次ぎ熱中症でダウン。週末の予定がなくなってしまった。せっかくの休日、エアコンのきいた自宅でスマホいじるだけで終わるのもなんだかもったいないので、こういう時はたまったタスクを消化しよう。昼間からテキーラリキュールの炭酸割を片隅にコツコツ作成。

データソース

データソースは、東京都市圏交通計画協議会実施の『第6回パーソントリップ調査(2018年)』*1に含まれる「目的別駅間OD交通量」だ。久しぶりのオープンデータとなった。

「パーソントリップ調査(以下、PT調査と記載)」とは、ある人の平日の一日の「移動」を調査したもので、具体的には、だれ(属性。性別、年齢層など)が、何の目的(移動目的。通勤、通学、帰宅など)で、どんな手段(交通手段。鉄道、バス、徒歩など)を使い、どこから(出発地点)どこへ(目的地・到着地点)、いつ頃(移動時間帯)移動したのかを回答するものである*2。今回は平成30(2018)年に実施された第6回東京都市圏パーソントリップ調査のデータを用いている。「OD表」とは、出発地点と到着地点の間における人や物の流動量をテーブル形式で集計したものらしい*3

データ加工

ただ今回のOD表には位置情報が付与されていないので、国土数値情報サイトから2008年度(第5回)の同調査のシェープファイルをダウンロードして、必要カラムに絞った。第5回と第6回は調査対象地域が同一なので代替可能であると判定した。そしてOD表の提供形式がエクセルファイルなので、シェープファイルとのデータ結合に使用する駅コードにも若干加工を施した。この2点がパーソントリップ調査のデータを使用する際の難点、データのクセともいえるが、これさえ乗り越えてしまえば、残りの処理はTableau内で完結できる。

Tableauの操作画面①:csvファイル変換後、読み込む

エクセルファイル→csv変換して読み込む。このままだと移動目的が横持ちで使いづらいので、ピボット機能で縦持ちに変換。注意してほしいのが、ピボットは空間ファイルと結合する「前」に行う必要があるということ。空間ファイルには対応していないらしいので*4

Tableauの操作画面②:空間ファイルと結合。今回はリレーションを使用

加工済駅コードをキーに、シェープファイル(空間ファイル)とcsvを関連付ける。今回はOD表のため、乗車駅と降車駅の2つの地理情報を付与する必要があるため、シェープファイルの駅コードは、csvファイルの乗車駅コードと降車駅コードそれぞれに関連付ける。つまり同じファイルを2回結合するということ。なお、私はいつものクセでリレーションを使用してしまい、後から変更するのがめんどうでそのままにしているが、リレーションだと一部未使用データが混在するので、より厳密に言うなら内部結合を選択して、ワークブックで使用しない一切のデータを除外したほうがパフォーマンス上も良いだろうと思う。これはメモ書き。

完成!

完成!東京駅はなるほど全方向から通勤トリップを集めている

想像以上に面白くて、ずっとぽちぽちいじって遊んでます。以下にリンクを添付しているのでブラウザ上でもアクセス可能だが、Tableauをインストール済みならDLした方が挙動がスムーズ。

https://public.tableau.com/views/3PTPJOD/main?:language=ja-JP&:sid=&:redirect=auth&:display_count=n&:origin=viz_share_link

左の2つのグラフ(上段の地図と下段の棒グラフ)がパラメータ操作画面になっていて、①地図で見たい駅をクリック選択、②棒グラフで表示したい移動手段をクリック選択、の工程を踏むと、選択した属性が右のメイン地図に表示される。仕組みじたいはとてもシンプル。パラメータ操作画面が邪魔であれば、「パラメータを非表示にする」ボタンで非表示にできる。

ぽちぽち遊びつつ、この駅間OD表ひとつから色々なストーリーが見えてきたので、気づいたことを前後篇に分けて書いていこうと思う。前篇では「隣り合った駅どうし」を対象に、隣り合うがゆえの同質性と、隣り合っているのに存在する異質性から、それぞれの駅が立地する地域の「個性」を探ってみたい。

 

勝どき駅×月島駅

いずれも東京都中央区に存在する駅である。区内の代表的オフィス街であり商業地域である日本橋や京橋地区とは隅田川を境に独立し、複数の島々からなる地区、区側の資料では月島地区と呼ばれるエリアにある。選定理由は、普段ほとんど行くことのない(たまに気分で出社する)現在の勤め先オフィス所在地だから。

勝どき駅都営大江戸線

勝どき駅への通勤者」=勝どき駅周辺に勤務先がある人びと

勝どき駅への乗車駅別通勤トリップ数。移動目的が「自宅ー勤務」と「自宅ー業務」の合計値

勝どき駅への帰宅者」=勝どき駅周辺に住んでいる人びと

勝どき駅への乗車駅別帰宅トリップ数。移動目的「帰宅」の合計

月島駅東京メトロ有楽町線/都営大江戸線

月島駅への通勤者」=月島駅周辺に勤務先がある人びと

月島駅への乗車駅別通勤トリップ数。移動目的が「自宅ー勤務」と「自宅ー業務」の合計値
  • まず移動目的別集計で帰宅トリップ数が一番多いことから、この駅周辺には相当数の「住民」がいる、つまり住宅地域としての側面がいちばん強いことがわかる。住民も多いが通勤者もそこそこ多い=つまり若干のオフィス街的要素との併存を示唆する。勝どき駅も似たような傾向を見せつつ、こちらは通勤トリップ優勢のため、通勤>>>居住となっているのが対照的だ
  • 隣近所でいかにも関係の深そうな墨田区江東区隅田川対岸の中央区日本橋、京橋、八丁堀、築地が皆無だが、これは鉄道利用者に限定した集計なので、近隣であれば徒歩や自転車、バス移動の可能性があるから「いない」とは言い切れない
  • 通勤トリップ数トップ3は、曙橋駅(553)、志木駅(267)、新小岩駅(243)
  • 全方向的に分布はしているが、新宿区の曙橋に一番大きなトリップがあるように、どちらかというと山手線の外側、新宿~池袋から延びる西北方面の郊外に厚い
  • 西北郊外で一番目立つのは有楽町線直通の東武東上線沿線の志木駅有楽町線沿線の郊外住宅地から乗り換えなしで通勤する層が一定数いる

月島駅への帰宅者」=月島駅周辺に住んでいる人びと

月島駅への乗車駅別帰宅トリップ数。移動目的「帰宅」の合計
  • 「月島住民」の勤務先、通学先で目立つのは隅田川対岸の中央区、山手線の西日暮里~浜松町間、皇居周辺のお茶の水飯田橋~四谷あたり
  • 帰宅トリップ数トップ3は、汐留駅(730)、銀座一丁目駅(704)、四谷駅(542)
  • 六本木~赤坂も小さいけれど集中点が見える。ただし勝どき駅ほどではない
  • 都庁周辺については、勝どき駅ほど集中が見られない
  • 厚木からの帰宅352トリップは謎

勝どき駅×月島駅のまとめ

  • いずれの駅も大きな通勤トリップが見られるのでオフィス街としての側面も持ちつつ、勝どき駅の方が傾向として顕著である。勝どき駅は、江東区および江戸川区方面を中心に、全方面で広域的に通勤層を集めている
  • 月島駅勝どき駅と比較して通勤層の分布に江東方面が少なく、有楽町線とその直通路線に厚みがある
  • 帰宅トリップについては、両者とも多少分布のずれはあるものの、概ね傾向として似ている

勝どき駅周辺はタワーマンションが多く住民もそれなりにいるはずだが、同時にオフィスビル晴海トリトンスクエアを筆頭に櫛比するエリアであり、全体の傾向として後者が前者を上回った感がある。月島駅はそれと異なり、周囲に目立ったオフィスビルが少なく住宅が卓越するせいか、勝どき駅より住宅街らしい特徴を示していた。ただいずれの地区も、住民の域外への通勤通学先に大差はないようである。

 

田町駅×三田駅

東京都港区の中心部に位置する(港区の「へそ」と私は呼んでいる)、山手線沿線の代表的オフィス街であるが、その割に影が薄い*5。近隣の新橋、浜松町、品川の方が良くも悪くもキャラが立っているからであろうか。ある識者は「駅名で損をしている」と評価している。「田町」と聞いて思い浮かぶものがないと*6。かく言う私もこのエリアに引越す前までは、田町駅と聞いてもピンとこず、周辺に何があるのかを全く知らず、しばしば本気で北区の田端駅とまちがえることもあった。知人は一時期チャットに「田町駅」を「町田駅」と誤って書いていたことがあった(多摩地域在住者だった)。しかし、住んでみればなんのその、駅に近い芝の商業地にはだれもが知る有名企業の本社ビルがあちらこちらと鎮座する。桜田通りを挟んで反対側の三田の台地には慶応義塾グループが総本山を構え、大学やら、高等学校やら、グラウンドやら、出版社やら、マーケティングセンター(?)やら、犬も歩けば慶應に当たるくらいの密度でひしめきあい、独特な雰囲気を醸し出している。綱町三井倶楽部の広大な庭園を中心に、山手線の内側とは思えぬほどの緑と静寂に包まれる三田綱町の高級住宅街も、慶應の肩書があれはふんどし一丁で歩き回れるのだからたいしたものだ。

田町駅(JR山手線/京浜東北線

田町駅への通勤者」=田町駅周辺に勤務先がある人びと

田町駅への乗車駅別通勤トリップ数。移動目的が「自宅ー勤務」と「自宅ー業務」の合計値
  • 駅西口にNECや森永、長谷工コーポレーションなどの大企業が堂々たる本社ビルを構える山手線随一のオフィス街(の割には新橋・浜松町と比べ格段に薄い存在感が気になるところ…)だけある、通勤トリップ数が群を抜いて多い
  • 通勤者の住宅は、京浜東北線東海道線沿線を軸とする城南方面が最も顕著で、やや東側、隅田川以東千葉方面の層が薄いとは言っても、西は中央線、西武各線、北は東武線、東は総武線常磐線に至るまで、全方向的に集客が見られる
  • 城南方面については、神奈川県横浜市川崎市は言うに及ばず、藤沢市茅ヶ崎市という遠方まで勢力圏が衰えていないのは注目に値する
  • 通勤トリップ数トップ3は、川口駅(1,471)、川崎駅(1,467)、大森駅(1,347)

田町駅への帰宅者」=田町駅周辺に住んでいる人びと

田町駅への乗車駅別帰宅トリップ数。移動目的「帰宅」の合計
  • 蒲田駅に最も集中するほか、山手線の神田ー新橋、大崎ー五反田、渋谷ー恵比寿あたりに固まっている
  • 帰宅トリップ数トップ3は、蒲田駅(1,669)、東京駅(762)、大崎駅(683)
  • 三軒茶屋や用賀等の、東急線の各駅がちらほら出ているのは興味深い。オフィス街ともあまり思えないので、この地域に通学する子息子女がいるのだろうか

田町駅への通学者」=田町駅周辺に通学先がある学生・生徒

田町駅への乗車駅別トリップ数。「自宅ー通学」の合計
  • 田町駅周辺には私立の大学、高等学校、中学校が櫛比しているので、これらに通う膨大な数の学生生徒がいると想定され、ゆえに通学トリップもそれなりにカウントされている
  • 通学トリップ数トップ3は、鶴見駅(384)、川口駅(258)、保谷駅(243)
  • 通学者の自宅所在地は、目黒区、大田区、世田谷区、神奈川県の城南方面と、練馬区および埼玉県の城北方面にかっきり2分されている
  • 隅田川以東の城東五区(墨田区江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は皆無。千葉県下に部分的な集合店が見られるのみ
  • 注目すべきは、川崎、横浜から続いて、北鎌倉に集中点があること。湘南の高級住宅街の子息が通う名門学校の存在がにおう

三田駅(都営浅草線/都営三田線

三田駅への通勤者」=三田駅周辺に勤務先がある人びと

三田駅への乗車駅別通勤トリップ数。移動目的が「自宅ー勤務」と「自宅ー業務」の合計値
  • 田町駅の目と鼻の先にあるだけあって、通勤トリップが格段に多い代表的なオフィス街的な特徴を示しながらも、その流入元はとみれば、田町駅とはずいぶんと異なる傾向を示すのが面白い
  • 通勤トリップ数トップ3は、西馬込駅(1,153)、日吉駅(873)、元住吉駅(750)
  • まず、三田線とその直通路線(東急目黒線)。神奈川方面では、元住吉、日吉にひときわ大きい塊がある。城北・埼玉方面では、板橋区役所前を中心にまんべんなく分布しており、分厚い通勤エリアを形成している
  • 次に、浅草線とその直通路線(京成押上線京急線)。浅草線西馬込~戸越にかけてが最も大きな集中地点だ。加えて、首都圏で最もローカルな路線と言っても良いであろう京成押上線からの集客が目を引く。浅草と京成立石に集中地点が見られるほか、ほぼ全駅から通勤客があるのがわかる。一方、京急線はそこまでのトリップ数はない
  • さらに、乗り換えが必要な東陽町~葛西(東西線)、月島~勝どき(大江戸線)からも無視できない数の通勤者がいることが判明する
  • 以上のことから、山手線城南方面の典型的な「山の手」オフィス街でありながら田町駅とは少々雰囲気を異にし、少なからぬ城東方面の通勤者を輸入しているのがこの駅の特徴である

三田駅への帰宅者」=三田駅周辺に住んでいる人びと

三田駅への乗車駅別帰宅トリップ数。移動目的「帰宅」の合計
  • こちらは田町駅の帰宅者と似たような傾向を示している。この2つの駅は隣り合って存在するため、周辺居住者の属性はその過半が重なり合っていると考えて差し支えないだろう
  • 帰宅トリップ数トップ3は、目黒駅(652)、大手町駅(533)、麹町駅(494)
  • 田町駅のケースと比較して、分布域がかなり限定的である。大手町周辺、麹町~溜池山王、六本木周辺、水道橋周辺、目黒周辺、本蓮沼西馬込、穴守稲荷等々
  • 浅草線三田線いずれもキャパがそれほど大きい路線ではないことも影響していよう

なお、通学者に関しては、トリップ数の少なさもさることながら明確な地域差が出なかったので紹介は割愛する。

田町駅×三田駅まとめ

  • 両者とも山手線沿線の代表的なオフィス街らしく、膨大な通勤人口を抱えているが、通勤者の分布はかなり様子が異なる。城南・神奈川方面に厚くも全方向的に分布する田町駅とは異なり、三田駅浅草線三田線とそれぞれの直通路線に偏った分布を見せるほか、月島・勝どき地区並びに城東方面からの流入にも顕著な特徴がある
  • 帰宅トリップは、いずれの駅も良く似た傾向を示すが、三田駅の方がエリアがやや狭い
  • 田町駅の通学者には鎌倉など遠方も目立つ

いずれも東京圏において広範囲に大量の通勤者を集めるオフィス街であるが、とくに三田駅京成押上線および城東地域への窓口として機能しているのが興味深い。一方の居住者は大手町周辺だけでなく、渋谷~目黒~大崎方面のIT業界の集合地帯、あるいは蒲田方面などに通勤通学する傾向がある。また周辺に多くの教育機関を抱える学生街でもあり、主として城南・神奈川方面から通学者を集めている。

 

まとめ

勝どき駅月島駅田町駅三田駅、2つの組合せてそれぞれの地域性を探ってみた。いずれも中央区と港区という、東京23区の都心部に位置しながら、住宅地域的な色彩も強い月島、オフィス街でありながら同時に学生街でもある田町・三田、逆に学生街としての要素がほぼ皆無でオフィス街、住宅街の両面の特化した勝どきなど、固有の特性が見えてきたのではないだろうか。もっと深掘りするのであれば、通学者は通勤者ほど遠方に出ない、すなわち自宅から徒歩或いは自転車バス等でアクセスできるエリアにおいてよく観察されるのではないかという点を検証してみたい。今回は鉄道利用者に限定したOD表だったのでそこが見えてこなかったが、鉄道以外の交通手段のデータを合わせてみればその一端がうかがい知れることであろう。

*1:

www.tokyo-pt.jp

*2:

www.tokyo-pt.jp

*3:

kotsutorisetsu.com

*4:

help.tableau.com

*5:2019年のとある調査では、山手線沿線で影の薄い駅ランキング7位に田町駅がランクインしていた。上位は鶯谷駒込、西日暮里、田端など北東方面の駅が目立つ中、この順位に港区内の駅が上がるのもさもありなんというところか。

trafficnews.jp

 

*6:

toyokeizai.net

【Tokyo Viz Week Day8】Friday Night in Tamachi & Mita|オフィス街・学生街には大衆居酒屋あり

三田の三角廻れば四角、薩摩屋敷は七曲り*1

  • はじめに
  • データとその定義について
  • ターゲットエリア-東京23区の縮図-
  • 4軒に1軒が居酒屋
  • 田町・三田のNoodle Map
  • 席数とディナー客単価の関係
  • 平日のみ営業する店舗が全体の約25%を占める
  • まとめ
  • あとがき-三田の美学-

はじめに

「都市」は生き物であり、時間とともに多種多様な構成要素が複雑に交差し影響しあう有機体である。その中からある地区を「街」として切り出してみても、その複雑性は変わらない。そこで「街」を構成する多数の属性のうち、一つの属性にだけ着目してみよう。本プロジェクトは「飲食店」という視点から、隣接していながら全く異なる二つのある「街」の「個性」を描き出す。まず今回登場するのは都心のオフィス街、学生街として有名な田町・三田。日本有数の富裕層と、そのおこぼれにあずかろうとする輩がひったきりなしに集まる港区にありながら、ある意味港区らしくない匂いがあるこの街にはどのような「顔」があるのか。

Vizはこちらから→https://public.tableau.com/app/profile/haruna.matsumoto/viz/FridayNightinTamachiMita/Top

*1:港区立三田図書館所蔵の赤尾兼草『慶応仲通南振興会由来記』(慶応仲通南振興会、1968)よりp29

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【Tokyo Viz Week Day6】RemakeVizTokyo #1 老いゆく東京

https://public.tableau.com/views/AgingPopulationinTokyos23Wards/Page1?:language=ja-JP&:display_count=n&:origin=viz_share_link

この企画について

 RemakeVizTokyoは、Tableau界では有名すぎるあの企画、MakeOver Mondayにリスペクトした企画であり、世に出回るちょっとイマイチな?「東京にまつわる」グラフ記事を、ちょっとだけクールに?作り替えていこう!という趣旨。世界にはまだまだたくさん作り直しがいのあるグラフ表現であふれている。条件は、①東京に関する記事であることと、②東京都のオープンデータを用いて作成されていること、の2点。

今回のお題

 今回はこちらのグラフをMakeoverした。東京23区における高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合。ただし総人口から年齢不詳人口を除く)を区別集計して比較したもの。

 ちなみに元記事はこちら。本文中には、高齢化率だけでなく、年少人口や生産年齢人口についても言及があるものの、それらを掲載することで特にこれといった意図があるわけでもなく、やや記述が散漫なところがあると感じたので、今回は高齢化率のみに焦点を絞ることに決定。

fp-research.co.jp

 データに関して1点注意がある。元記事は2022年8月1日現在の各区人口統計データをベースにしており、作成当時最新データが取得できなかった一部の区においては2022年1月及び4月、7月の数値を採用したと記載しているが、今回作るものに関しては、すべて2022年1月1日時点のデータに揃えた。データの出典は東京都総務局統計部の公式HPだ。

www.toukei.metro.tokyo.lg.jp

改善すべきと感じた点

 全体的に情報が多すぎてごちゃごちゃしている印象を受けた。まずは必要な情報だけに絞って、次に見せ方を考えたほうが良い気がする。具体的な改善点は以下の通り。

  1. ラベルが棒グラフと重なっており見づらい。とくに区名をグラフ上に掲載してしまっている点。また、軸を表示しているのにも関わらずグラフ中にも数値を掲載しているので、同じデータを2重に表示しており、これもグラフがごちゃごちゃする要因になっている
  2. 高齢化率の上位5位を赤字かつ少し大きめのラベルで表示しているが、これでは棒グラフではなくラベルの方に目が行ってしまう
  3. グラフ中には23区しか表示していないのに、東京都平均と全国平均をグラフ中に表示する意味はあるのか?東京23区平均との比較だけで充分ではないか?
  4. 軸が0%スタートになっていないため、あまり正確でない方法で差異を強調している
  5. 高齢化率が高いエリアには地理的な傾向が見られるので、プラスαで地図による表現を検討してもよさそう

改善した内容

 単純に各区の数値を比較するだけでは、最大でも差分10%と小さいので、「東京23区平均との差分」によって各区を比較することにした。具体的には、各区の数値と23区平均との差分を取り、プラスになるかマイナスになるか、および差分の大きさに応じて色分けした。これなら軸を0%スタートにするといったグレーなテクを使う必要なく、各区の差異を強調できる。

  1. 各区の高齢化率はシンプルなロリポップチャートで表現。まずこれで実際の数値を確認する。軸は煩わしいので削除して、差分が出やすい15%、20%、25%のみリファレンスラインで補助線を引く
  2. 次に23区平均との差分をとり、バーチャートで表現して、昇順でソートする
  3. 地理的分布を見るために、23区平均との差分で色分けしたコロプレス図を作成
  4. 最後に23区平均と全国平均をテキストで別枠に表示

感想

 千代田区中央区、港区の都心3区で高齢化率が低く、都心から見て北側(城北)および東側(城東)の区で相対的に高い傾向が一目瞭然だ。都心3区は、近年タワーマンションが多数建設され、夫婦ともに高収入なパワーカップルが続々と流入していると言われる*1が、実際に2000年から2015年の15年間における東京23区居住者の年収と居住地選好の関係を調査したある論文によれば、年収階層が高いエリアほど高齢化率が低くなり、逆に年収階層が低いエリアほど高齢化率が高まっているという*2。別のある識者は、東京都の各種統計を引用して、これまで東京23区の出生率トップ3であった足立区、葛飾区、江戸川区の3区が、2014年前後からその順位を下げ、代わりにトップ3に躍り出たのが千代田区中央区、港区の都心3区であることを指摘し、この3つがいずれも東京23区の高所得エリアであることから、近年では所得の高低が出生率に影響し、高所得者ほど子供を持ちやすくなりつつある現実を「結婚は贅沢な消費と化した」と表現した*3。今回は高齢化率のみに注目したが、その裏には東京23区全体を揺るがす所得格差問題が潜んでいるようである。それは古くも新しい話題であり、東京が抱える永遠のテーマでもある。

*1:ざっと検索した限りでも以下のような記事がヒットする。「湾岸なんて、液状化しない?」なんてネガティブな先入観を持っていた記者が心変わりするストーリものの、赤沢奈穂子(2022-10-17)「気になるあの街に行ってみた!パワーカップルひしめく「豊洲」購買力格差を捉えた階層別エリアマーケティング」J-marketing.net、最終閲覧2023/10/19。エリアの世帯年収を調査した、ワイガヤBlog(2017-4-5)「タワーマンション世帯年収調査【東京 豊洲編】」最終閲覧2023/10/19。

J-marketing.net

waigaya.jp

*2:佐藤宏亮(2023)「東京都23区における年収階層による居住地域の分化に関する研究」日本建築学会計画系論文集 第88巻 第809号, 2169-2178より

*3:荒川和久(2023-01-27)「東京中央区出生率トップ「結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為」となったのか?」YAHOOニュース、2023/10/19最終閲覧より

【Tokyo Viz Week Day5】関東大震災100年プロジェクト|Part 2:なぜ下町で被害が大きかったのか?

ライトアップされた永代橋。関東談震災からの復興橋のひとつで1925(大正15)年に竣工した。

 ああ、大東京。
 南西は品川、高輪より半弧を成す芝浦、京橋、深川、洲崎、砂町のその地域の規模の広大さ。近くは越中島の白煙突黒煙突、赤倉庫、水産講習所、灰色の東京市古米倉庫、小栗飛行場、新鮮な電燭の閃々とかがやき出た弁天町の遊廓。大突堤
 夜景、夜景、夜景を見よ。
 震災後の東京、ともするとバラックが低く一大広野とも見ゆる一円の復興中の市街の大観において、その所々に高く、紅く、或は黄色に点じた高楼大厦のイルミネーション。
――北原白秋(1927)「大川風景」『大東京繁昌記 下町篇』(講談社、1976)収録よりp110参照

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【Tokyo Viz Week Day4】関東大震災100年プロジェクト|Part 1:東京市15区における被害の程度を可視化する

時事新報社(1923)『東京及横濱復興地圖』。画像は公益財団法人全国市有物件災害共済会 防災図書館所蔵より。
昭和通り靖国通り、蔵前橋通り等、東京都心を貫く主要道路は震災復興計画で実現したものばかりである。

 同じ都会の中でもこんなに町が動いていることは、東西共に変りはないようだ。これは交通機関の移動や市区の改正により、市場の変遷に伴う幾多の関係により、地価の騰貴、沿道改築費の負担、諸税の増加、その他種々な経済事情によることはもとより言うまでもないが、しかしそればかりでなしに、町には町の性格があり、生長があり、老衰があり、また復活があって、一軒二軒の力でそれをどうすることの出来ないようなところもあるかと思う。(中略)
 過ぐる年の震災が来た。その時になって見ると、この飯倉附近にある古いものが、にわかに光って見えて来た。何故かなら、ここにある古い商家の黒光りのした壁、その紺暖簾のかかった深い軒なぞは、今ではもう日本橋あたりにも見られないものであろうから。私はあの石町、大伝馬町それから橘町あたりに軒を連ね甍を並べていた、震災以前の商家の光景を忘れることの出来ないものであるだけに、一層この感が深い。
――島崎藤村(1928)「飯倉附近」『大東京繫昌記 山の手篇』(平凡社ライブラリー、1999)よりpp14-15参照

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【Tokyo Viz Week Day3】社長は東京23区のどこに住む?

赤坂・檜町公園の静寂。グレーの個性的な屋根を持つ建物は秀和赤坂レジデンシャルホテル
  • はじめに
  • データセットについて
  • 社長の住む街にも色々ある
    • ①元祖「超」高級住宅地
    • ②郊外の田園住宅地
    • ③下町あるいは江東の商工業地帯
    • ④タワマン下剋上でプチセレブ化した新興住宅地
  • 今回のチャレンジポイント
  • 社長は港区に回帰する

はじめに

 東京都心という場所は、これほど緑豊かなところなのかと思った。今まで暮らしてきた江戸川周辺や、埼玉の延長線上にある池袋界隈は、東京23区内とはいえ郊外に属する部類、河川敷は広々と、芝生を囲み築山が配されて、木影が涼しい大中の公園があっても驚くほどのことでもないが、地価は高い、土地は狭い都心の一等地、オープンスペースの確保がこれほど贅沢な趣味となる場所も都内では数えるほどであろう、赤坂、六本木、麻布、三田、白金、高輪のまちなかに、中央に湧水池をたたえた回遊式庭園、長い塀の向こうにうっそうと広がる雑木林、社寺を取り囲む鎮守の杜、道端に並ぶ老樹の並木等が、当たり前のように存在していることに驚いた。赤坂の御用地と檜町公園、南青山の神宮外苑根津美術館、芝の愛宕山芝公園、六本木の国際文化会館を含む鳥居坂付近、麻布の有栖川宮記念公園と善福寺、三田の綱町三井倶楽部イタリア大使館、高輪の皇族邸と関東閣、白金台の附属自然教育園八芳園。。。社寺などを除き、その多くは限られた人々のみ足を踏み入れることの出来るプライベートガーデンであり、一般人の立ち入りを固く禁じているが、所有者の変更と共に自治体や団体に寄付され、公園として一般公開するに至った例もある。

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