はじめに
ここ最近の猛暑ですっかり出不精になり、遊ぶ予定の友人は相次ぎ熱中症でダウン。週末の予定がなくなってしまった。せっかくの休日、エアコンのきいた自宅でスマホいじるだけで終わるのもなんだかもったいないので、こういう時はたまったタスクを消化しよう。昼間からテキーラリキュールの炭酸割を片隅にコツコツ作成。
データソース
データソースは、東京都市圏交通計画協議会実施の『第6回パーソントリップ調査(2018年)』*1に含まれる「目的別駅間OD交通量」だ。久しぶりのオープンデータとなった。
「パーソントリップ調査(以下、PT調査と記載)」とは、ある人の平日の一日の「移動」を調査したもので、具体的には、だれ(属性。性別、年齢層など)が、何の目的(移動目的。通勤、通学、帰宅など)で、どんな手段(交通手段。鉄道、バス、徒歩など)を使い、どこから(出発地点)どこへ(目的地・到着地点)、いつ頃(移動時間帯)移動したのかを回答するものである*2。今回は平成30(2018)年に実施された第6回東京都市圏パーソントリップ調査のデータを用いている。「OD表」とは、出発地点と到着地点の間における人や物の流動量をテーブル形式で集計したものらしい*3。
データ加工
ただ今回のOD表には位置情報が付与されていないので、国土数値情報サイトから2008年度(第5回)の同調査のシェープファイルをダウンロードして、必要カラムに絞った。第5回と第6回は調査対象地域が同一なので代替可能であると判定した。そしてOD表の提供形式がエクセルファイルなので、シェープファイルとのデータ結合に使用する駅コードにも若干加工を施した。この2点がパーソントリップ調査のデータを使用する際の難点、データのクセともいえるが、これさえ乗り越えてしまえば、残りの処理はTableau内で完結できる。
エクセルファイル→csv変換して読み込む。このままだと移動目的が横持ちで使いづらいので、ピボット機能で縦持ちに変換。注意してほしいのが、ピボットは空間ファイルと結合する「前」に行う必要があるということ。空間ファイルには対応していないらしいので*4。
加工済駅コードをキーに、シェープファイル(空間ファイル)とcsvを関連付ける。今回はOD表のため、乗車駅と降車駅の2つの地理情報を付与する必要があるため、シェープファイルの駅コードは、csvファイルの乗車駅コードと降車駅コードそれぞれに関連付ける。つまり同じファイルを2回結合するということ。なお、私はいつものクセでリレーションを使用してしまい、後から変更するのがめんどうでそのままにしているが、リレーションだと一部未使用データが混在するので、より厳密に言うなら内部結合を選択して、ワークブックで使用しない一切のデータを除外したほうがパフォーマンス上も良いだろうと思う。これはメモ書き。
完成!
想像以上に面白くて、ずっとぽちぽちいじって遊んでます。以下にリンクを添付しているのでブラウザ上でもアクセス可能だが、Tableauをインストール済みならDLした方が挙動がスムーズ。
左の2つのグラフ(上段の地図と下段の棒グラフ)がパラメータ操作画面になっていて、①地図で見たい駅をクリック選択、②棒グラフで表示したい移動手段をクリック選択、の工程を踏むと、選択した属性が右のメイン地図に表示される。仕組みじたいはとてもシンプル。パラメータ操作画面が邪魔であれば、「パラメータを非表示にする」ボタンで非表示にできる。
ぽちぽち遊びつつ、この駅間OD表ひとつから色々なストーリーが見えてきたので、気づいたことを前後篇に分けて書いていこうと思う。前篇では「隣り合った駅どうし」を対象に、隣り合うがゆえの同質性と、隣り合っているのに存在する異質性から、それぞれの駅が立地する地域の「個性」を探ってみたい。
①勝どき駅×月島駅
いずれも東京都中央区に存在する駅である。区内の代表的オフィス街であり商業地域である日本橋や京橋地区とは隅田川を境に独立し、複数の島々からなる地区、区側の資料では月島地区と呼ばれるエリアにある。選定理由は、普段ほとんど行くことのない(たまに気分で出社する)現在の勤め先オフィス所在地だから。
勝どき駅(都営大江戸線)
- 広域的にまんべんなく通勤しているようにみえるが、一部偏りがある
- 通勤トリップ数トップ3は、千川駅(646)、西新宿五丁目駅(546)、森下駅(451)
- とくに、都営新宿線&東西線沿線の江東区、江戸川区に通勤ボリュームの大きな駅がいくつも連続している。通勤層に江東区民および江戸川区民が目立つということか
- 何気に副都心線千川駅と大江戸線西新宿五丁目駅からもどかっと来ている
- 日本橋駅~大手町駅~小川町駅に集中地点あり。オフィス街なのでおそらくこのあたりへ勤める人が多いのだろう
- 帰宅トリップ数トップ3は、三田駅(507)、日本橋駅(456)、両国駅(443)
- 三田駅~六本木駅~溜池山王駅は、とくに情報通信業のオフィス多いはずだからその辺の勤務者だろうか
- 都庁周辺にも集中地点あるので、東京都職員とかたくさん住んでそう
- 高田馬場駅、早稲田駅、新江古田駅、本郷三丁目駅、両国駅、北千住駅(そして三田駅)は、いずれも周囲に学校が多いので学生さんかな?勝どきじたい家族世帯の多い街なので、ご子息が通学する大学や中学校高等学校がこのエリアにあるということか…結構高学歴
月島駅(東京メトロ有楽町線/都営大江戸線)
- まず移動目的別集計で帰宅トリップ数が一番多いことから、この駅周辺には相当数の「住民」がいる、つまり住宅地域としての側面がいちばん強いことがわかる。住民も多いが通勤者もそこそこ多い=つまり若干のオフィス街的要素との併存を示唆する。勝どき駅も似たような傾向を見せつつ、こちらは通勤トリップ優勢のため、通勤>>>居住となっているのが対照的だ
- 隣近所でいかにも関係の深そうな墨田区、江東区、隅田川対岸の中央区日本橋、京橋、八丁堀、築地が皆無だが、これは鉄道利用者に限定した集計なので、近隣であれば徒歩や自転車、バス移動の可能性があるから「いない」とは言い切れない
- 通勤トリップ数トップ3は、曙橋駅(553)、志木駅(267)、新小岩駅(243)
- 全方向的に分布はしているが、新宿区の曙橋に一番大きなトリップがあるように、どちらかというと山手線の外側、新宿~池袋から延びる西北方面の郊外に厚い
- 西北郊外で一番目立つのは有楽町線直通の東武東上線沿線の志木駅。有楽町線沿線の郊外住宅地から乗り換えなしで通勤する層が一定数いる
- 「月島住民」の勤務先、通学先で目立つのは隅田川対岸の中央区、山手線の西日暮里~浜松町間、皇居周辺のお茶の水~飯田橋~四谷あたり
- 帰宅トリップ数トップ3は、汐留駅(730)、銀座一丁目駅(704)、四谷駅(542)
- 六本木~赤坂も小さいけれど集中点が見える。ただし勝どき駅ほどではない
- 都庁周辺については、勝どき駅ほど集中が見られない
- 厚木からの帰宅352トリップは謎
- いずれの駅も大きな通勤トリップが見られるのでオフィス街としての側面も持ちつつ、勝どき駅の方が傾向として顕著である。勝どき駅は、江東区および江戸川区方面を中心に、全方面で広域的に通勤層を集めている
- 月島駅は勝どき駅と比較して通勤層の分布に江東方面が少なく、有楽町線とその直通路線に厚みがある
- 帰宅トリップについては、両者とも多少分布のずれはあるものの、概ね傾向として似ている
勝どき駅周辺はタワーマンションが多く住民もそれなりにいるはずだが、同時にオフィスビルも晴海トリトンスクエアを筆頭に櫛比するエリアであり、全体の傾向として後者が前者を上回った感がある。月島駅はそれと異なり、周囲に目立ったオフィスビルが少なく住宅が卓越するせいか、勝どき駅より住宅街らしい特徴を示していた。ただいずれの地区も、住民の域外への通勤通学先に大差はないようである。
②田町駅×三田駅
東京都港区の中心部に位置する(港区の「へそ」と私は呼んでいる)、山手線沿線の代表的オフィス街であるが、その割に影が薄い*5。近隣の新橋、浜松町、品川の方が良くも悪くもキャラが立っているからであろうか。ある識者は「駅名で損をしている」と評価している。「田町」と聞いて思い浮かぶものがないと*6。かく言う私もこのエリアに引越す前までは、田町駅と聞いてもピンとこず、周辺に何があるのかを全く知らず、しばしば本気で北区の田端駅とまちがえることもあった。知人は一時期チャットに「田町駅」を「町田駅」と誤って書いていたことがあった(多摩地域在住者だった)。しかし、住んでみればなんのその、駅に近い芝の商業地にはだれもが知る有名企業の本社ビルがあちらこちらと鎮座する。桜田通りを挟んで反対側の三田の台地には慶応義塾グループが総本山を構え、大学やら、高等学校やら、グラウンドやら、出版社やら、マーケティングセンター(?)やら、犬も歩けば慶應に当たるくらいの密度でひしめきあい、独特な雰囲気を醸し出している。綱町三井倶楽部の広大な庭園を中心に、山手線の内側とは思えぬほどの緑と静寂に包まれる三田綱町の高級住宅街も、慶應の肩書があれはふんどし一丁で歩き回れるのだからたいしたものだ。
田町駅(JR山手線/京浜東北線)
- 駅西口にNECや森永、長谷工コーポレーションなどの大企業が堂々たる本社ビルを構える山手線随一のオフィス街(の割には新橋・浜松町と比べ格段に薄い存在感が気になるところ…)だけある、通勤トリップ数が群を抜いて多い
- 通勤者の住宅は、京浜東北線、東海道線沿線を軸とする城南方面が最も顕著で、やや東側、隅田川以東千葉方面の層が薄いとは言っても、西は中央線、西武各線、北は東武線、東は総武線、常磐線に至るまで、全方向的に集客が見られる
- 城南方面については、神奈川県横浜市、川崎市は言うに及ばず、藤沢市、茅ヶ崎市という遠方まで勢力圏が衰えていないのは注目に値する
- 通勤トリップ数トップ3は、川口駅(1,471)、川崎駅(1,467)、大森駅(1,347)
- 蒲田駅に最も集中するほか、山手線の神田ー新橋、大崎ー五反田、渋谷ー恵比寿あたりに固まっている
- 帰宅トリップ数トップ3は、蒲田駅(1,669)、東京駅(762)、大崎駅(683)
- 三軒茶屋や用賀等の、東急線の各駅がちらほら出ているのは興味深い。オフィス街ともあまり思えないので、この地域に通学する子息子女がいるのだろうか
- 田町駅周辺には私立の大学、高等学校、中学校が櫛比しているので、これらに通う膨大な数の学生生徒がいると想定され、ゆえに通学トリップもそれなりにカウントされている
- 通学トリップ数トップ3は、鶴見駅(384)、川口駅(258)、保谷駅(243)
- 通学者の自宅所在地は、目黒区、大田区、世田谷区、神奈川県の城南方面と、練馬区および埼玉県の城北方面にかっきり2分されている
- 隅田川以東の城東五区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は皆無。千葉県下に部分的な集合店が見られるのみ
- 注目すべきは、川崎、横浜から続いて、北鎌倉に集中点があること。湘南の高級住宅街の子息が通う名門学校の存在がにおう
三田駅(都営浅草線/都営三田線)
- 田町駅の目と鼻の先にあるだけあって、通勤トリップが格段に多い代表的なオフィス街的な特徴を示しながらも、その流入元はとみれば、田町駅とはずいぶんと異なる傾向を示すのが面白い
- 通勤トリップ数トップ3は、西馬込駅(1,153)、日吉駅(873)、元住吉駅(750)
- まず、三田線とその直通路線(東急目黒線)。神奈川方面では、元住吉、日吉にひときわ大きい塊がある。城北・埼玉方面では、板橋区役所前を中心にまんべんなく分布しており、分厚い通勤エリアを形成している
- 次に、浅草線とその直通路線(京成押上線、京急線)。浅草線の西馬込~戸越にかけてが最も大きな集中地点だ。加えて、首都圏で最もローカルな路線と言っても良いであろう京成押上線からの集客が目を引く。浅草と京成立石に集中地点が見られるほか、ほぼ全駅から通勤客があるのがわかる。一方、京急線はそこまでのトリップ数はない
- さらに、乗り換えが必要な東陽町~葛西(東西線)、月島~勝どき(大江戸線)からも無視できない数の通勤者がいることが判明する
- 以上のことから、山手線城南方面の典型的な「山の手」オフィス街でありながら田町駅とは少々雰囲気を異にし、少なからぬ城東方面の通勤者を輸入しているのがこの駅の特徴である
- こちらは田町駅の帰宅者と似たような傾向を示している。この2つの駅は隣り合って存在するため、周辺居住者の属性はその過半が重なり合っていると考えて差し支えないだろう
- 帰宅トリップ数トップ3は、目黒駅(652)、大手町駅(533)、麹町駅(494)
- 田町駅のケースと比較して、分布域がかなり限定的である。大手町周辺、麹町~溜池山王、六本木周辺、水道橋周辺、目黒周辺、本蓮沼、西馬込、穴守稲荷等々
- 浅草線、三田線いずれもキャパがそれほど大きい路線ではないことも影響していよう
なお、通学者に関しては、トリップ数の少なさもさることながら明確な地域差が出なかったので紹介は割愛する。
- 両者とも山手線沿線の代表的なオフィス街らしく、膨大な通勤人口を抱えているが、通勤者の分布はかなり様子が異なる。城南・神奈川方面に厚くも全方向的に分布する田町駅とは異なり、三田駅は浅草線、三田線とそれぞれの直通路線に偏った分布を見せるほか、月島・勝どき地区並びに城東方面からの流入にも顕著な特徴がある
- 帰宅トリップは、いずれの駅も良く似た傾向を示すが、三田駅の方がエリアがやや狭い
- 田町駅の通学者には鎌倉など遠方も目立つ
いずれも東京圏において広範囲に大量の通勤者を集めるオフィス街であるが、とくに三田駅が京成押上線および城東地域への窓口として機能しているのが興味深い。一方の居住者は大手町周辺だけでなく、渋谷~目黒~大崎方面のIT業界の集合地帯、あるいは蒲田方面などに通勤通学する傾向がある。また周辺に多くの教育機関を抱える学生街でもあり、主として城南・神奈川方面から通学者を集めている。
まとめ
勝どき駅と月島駅、田町駅と三田駅、2つの組合せてそれぞれの地域性を探ってみた。いずれも中央区と港区という、東京23区の都心部に位置しながら、住宅地域的な色彩も強い月島、オフィス街でありながら同時に学生街でもある田町・三田、逆に学生街としての要素がほぼ皆無でオフィス街、住宅街の両面の特化した勝どきなど、固有の特性が見えてきたのではないだろうか。もっと深掘りするのであれば、通学者は通勤者ほど遠方に出ない、すなわち自宅から徒歩或いは自転車バス等でアクセスできるエリアにおいてよく観察されるのではないかという点を検証してみたい。今回は鉄道利用者に限定したOD表だったのでそこが見えてこなかったが、鉄道以外の交通手段のデータを合わせてみればその一端がうかがい知れることであろう。